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仙台地方裁判所 昭和43年(行ウ)4号 判決 1980年10月08日

原告 木村章 ほか四名

被告 国

代理人 山田巖 栗野勉 及川峻 ほか一三名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告ら

(一)  原告木村章、同高橋貢がいずれも郵政省職員の地位にあることを確認する。

(二)  被告は、原告沼田正一に対し金三万五二〇〇円、同星上明に対し金二万六一〇〇円、同高橋二郎に対し金二万六一〇〇円および右金員に対する昭和四三年五月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

(四)  (二)項につき仮執行宣言。

二  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二原告らの請求原因

一  原告らはいずれも郵政事務官として、原告木村章(以下「原告木村」と略称する。)は仙台地方貯金局第一貯金課に、原告沼田正一(以下「原告沼田」と略称する。)は同局第四貯金課に、原告高橋貢(以下「原告貢」と略称する。)は同局第三貯金課に、原告星上明(以下「原告星上」と略称する。)は同局第一貯金課に、原告高橋二郎(以下「原告二郎」と略称する。)は同局恩給課に、各所属して勤務していたものであつたところ、郵政大臣は、昭和三九年一月二五日に、原告木村と原告貢に対し免職、原告沼田に対し停職六月間、原告星上と原告二郎に対し停職一〇月間という内容の懲戒処分をした。

二  原告らに対する郵政大臣の前記懲戒処分は以下の理由により無効である。

即ち、

(一)  処分事由が不明確かつ不特定である。

国家公務員法八九条一項によれば、職員に対し懲戒処分を行う場合に処分の事由を記載した処分説明書を交付しなければならないが、これは当該職員に処分の理由を知悉させて不服申立の機会を与えることにより懲戒処分の公正を保とうとするところにあるから、処分説明書の記載は明確にかつ処分事実を特定するに必要な程度の具体性をもつものでなければいけない。ところで原告らに交付された処分説明書における処分の理由については、おしなべて「……する等」の表現がとられている。本来、「等」なる表現には、処分説明書に具体的に記述されている事実が複数であること又はこれと密接不可分の関係にある軽微な附随的事項を指すことの意味しかないはずである。ところが、本件における処分説明書の「等」の中には記載されている具体的事実とは独立別個の処分事実を包括的に表現している。これは処分事由が不明確かつ不特定であつて処分説明書を交付せしめる趣旨に反するから、懲戒処分手続における明白な瑕疵に該当し、処分は無効である。

(二)  所属長による処分上申手続を欠いている。

郵政省職員懲戒処分規程(公達三三号)一一条には、各所属の長は所属職員に懲戒に当る所為があると認めるときは、内容を審査し、関係書類に詳細な意見を添えて速やかに上級の長又は郵政大臣に処分の上申をしなければならないという旨の定めがある。

本件各懲戒処分においてはこの上申手続を欠いている。これは手続上の重大な瑕疵であるから、本件各懲戒処分は無効である。

(三)  原告らは、処分の理由に該当する行為をしていない。

処分の理由として記載された事実はいずれも捏造されまたは真実を歪曲されたものであり、処分の理由がないのに懲戒処分をしたことになるから、これは無効である。

(四)  本件各懲戒処分は不当労働行為に該当する。

本件各懲戒処分は、原告らが参加した元通事務処理反対闘争および簡保転貸債反対闘争の過程にあらわれた諸行為をとらえて処分事由としたものである。これら反対闘争には原告らのみならず原告らが所属する全逓信労働組合仙台地方貯金局支部の組合員全部が参加し、処分事由とされた程度の行動はほとんどの組合員がなしている。原告らのうち、原告木村は右組合支部の支部長、原告沼田は同副支部長、原告貢は同書記長、原告星上と原告二郎は同執行委員であつて、いずれも組合役員として組合活動を活発にしているものであるが、郵政大臣と郵政局管理者はかねてより右組合支部の存在と原告らの組合活動を嫌悪しており、原告らを組合から排除して組合の弱体化を意図して原告らに対し特に重い処分をしたものであるから、明白な不当労働行為であり、本件各懲戒処分は無効である。

(五)  本件各懲戒処分は懲戒権を濫用したものである。

全逓信労働組合仙台地方貯金局支部は昭和二一年に結成されて以来管理者との労使関係が正常に発展し、幾多の労使慣行が樹立されたが、その中には、労働条件に関する事項はすべて貯金局管理者と貯金支部の団体交渉ただし細部については各課長と各課選出の執行委員か各課組合員との交渉により決定すること、勤務時間中における組合活動を大巾に自由化し、組合活動のため庁舎諸施設を利用したり組合の集会を開く場合は書面又は口頭で届出すればよいこと、組合関係文書の配布、掲示は自由であること、などがある。

昭和三八年五月、郵政省は郵便貯金における貯金元利金額通知書発送事務、即ち貯金原簿によつて元利金を計算して各預金者に通知する事務(以下「元通事務」と略称する。)を同年八月一日から実施することとし、これに関して郵政省と全逓中央本部との間で行われた団体交渉の後に仙台地方貯金局と組合仙台地方貯金局支部との間で団体交渉が行われて元通事務の具体的実施方法が取り決められ、組合員たる職員はこの取り決めに従つて右事務処理に従事していた。

ところが管理者側は、同年一〇月二三日になつて突如右の取り決めを一方的に破棄し、かつ従来までの労使慣行を無視し、業務命令書を乱発して組合員に担務以外の元通事務を強制的に行わしめたほか、団体交渉の拒否、組合大会のための会場使用拒否とか行き過ぎた労務管理即ち従前は交通機関の混雑などのため午前八時四五分位までの登庁の遅れは黙認されていたのを八時三〇分で閉門して容赦なく賃金カツトする等をした。

本件各懲戒処分の理由となつた原告らの行為は、このような管理者による組合活動に対する不当介入、団交拒否、行きすぎた労務管理等に対する抗議のための行動のあらわれであるから、その原因は管理者が作つたことになる。このように原告らの行為につき管理者が原因を作つておきながらこれに対し懲戒権を行使し、しかも行為の内容と程度が軽微であるにかかわらず原告木村と原告貢に対しては懲戒免職という重い処分をしたものであるから、これは懲戒権の濫用に該当するものというべく従つて無効である。

三  被告は、原告らに対する懲戒処分が有効であることを理由づけるために、処分説明書に記載されていない事実をも懲戒処分の根拠として本訴訟で主張しているがこのような主張は許されないから右主張は却下されるべきである。

四  本件懲戒処分当時、原告沼田は月額三万五二〇〇円、原告星上は月額二万六一〇〇円、原告二郎は月額二万六一〇〇円の各賃金を支給されていた。

五  本件各懲戒処分が無効であるから原告木村と原告貢は郵政省職員の身分を有しており、原告沼田、原告星上、原告二郎は被告に対し右の賃金債権を有している。

よつて原告木村と原告貢は被告に対し右身分の確認を、原告沼田、原告星上、原告二郎は被告に対し右賃金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁とその主張

一  請求原因一項は認める。同二項につき、(一)のうち処分説明書に原告ら主張のとおり「……する等」の表現がとられていることは認めるがその余は争い、(二)のうち本件各懲戒処分において原告ら主張のとおり処分上申手続を欠いていることは認めるがその余は争い、(三)は否認する、(四)のうち原告らがその主張のように組合役員として組合活動したことは認めるがその余は否認する、(五)のうち、全逓信労働組合仙台地方貯金局支部が昭和二一年に結成されたこと、昭和三八年五月郵政省が元通事務を同年八月一日から実施することとし中央と仙台で団体交渉があつたこと、その後管理者が労務管理を強化したことは認めるが、その余は否認する。同三項は争う。同四項は認める。同五項は争う。

二  原告らは懲戒処分の理由に該当する行為をした。その経過と詳細は以下のとおりである。

(一)  昭和三八年一〇月二三日以降同年一二月七日までの非違行為とその背景について

昭和三八年五月、郵政省では、部内の事故犯罪防止および預金者へのサービス向上を目的とし、従来の現在高確査事務に代るものとして、元通事務が導入されたことにより、昭和三八年度の右事務については、そのための新たな定員措置を講じないで、従来の現在高確査事務が廃止されたことによる手すき時間をこれに振り替えるほか、本務者の超過勤務と非常勤職員の採用によつてこれを処理し、同年八月から一一月にかけて処理を遂げる方針をたて、全逓本部においても了解したので、全国各地方貯金局にこの旨示達した。

仙台地方貯金局においては、この基本方針に依拠しつつも、組合支部からの要望をいれて、八月中は非常勤職員の採用によつてこれに当らしめ、その処理状況をみたうえでその後の処理計画を実行することとして、八月一日から非常勤職員二五名を採用して右事務処理にあたらせた。ところが結果的には全処理目標の約八パーセントを達成できたのみであり、他の地方貯金局に比し著しく遅滞した状況にあることが分つた。そこで同貯金局では、非常勤職員の採用と本務者の超過勤務のほかに、本務者の手すき時間の活用と一部職員を元通事務専担にすることを必要と考えて組合支部に了解と協力方を申し入れたが組合支部では組合本部に照会したが回答が無いとの理由でこれに応ぜずいたずらに日数が経過した。

そこで貯金局長は、これ以上支部の誠意と積極的協力とを期待することはできないものと判断し、支部の同意は得られないものの、本務者に対する業務命令の発出によつて、本務者をば正規の勤務時間内に元通事務処理に従事させ、一一月末を期限とする郵政本省指示の処理目標達成を期するとともに、この際従来から問題のあつた職員の勤務時間遵守とその管理体制の強化をはかり、貯金局職員が国家公務員として負う職務専念義務を確実に履行し、勤務時間のすべてを通じ全心身を職務遂行に傾注することの実を挙げるべく、同月二三日ころ以降、次のような措置を講ずることとし、一〇月一七日より同月二二日にかけて、支部に対しその旨通知するとともに全職員に伝達周知した。

イ 今後、貯金課職員に対しては、適宜業務命令により元通事務処理に従事することを命ずる。

ロ 今後、職員の出勤時間管理の適正を期するため、西門通用門大扉は午前八時三〇分をもつて閉鎖するものとし、遅参者は、西門大扉横の通用口にて監視員の出勤時間チエツクを受けて入局すること。

ハ 職員は、昼食時間は休憩休息時間を利用し、いやしくも勤務時間中に昼食のため離席することのないようにすること。

貯金局は、同月二三日から貯金課職員に対し、更に、元通事務に従事すべき旨の業務命令を発出し、同月二三日以降西側通用門大扉を午前八時三〇分に閉鎖し、これに遅れた職員のチエツクを開始した。当局の右措置に対し、支部は故なき反発を示し、業務命令発出に対しては、組合員をして、これを無視し、当該命令に服従することのないよう指導するとともに、支部役員による業務命令の伝達妨害、業務命令発出管理者に対する不当抗議等を反復し、また、西門閉鎖に対しては組合員をして、午前八時三〇分以前に入局することのないよう指導する傍ら、管理者による午前八時三〇分以前の大門開扉を妨害して、これを閉扉し、また逆に、午前八時三〇分以後は管理者による大門閉扉を妨害してこれを開扉し、かつ、その際、管理者に対する不当抗議を反復するなどし、更に、その後も話合いを求めるとの口実のもとに課長の下に押しかけて、これを強要する行動に出るなど数々の非違行為を行つた。

ところで、右西門閉扉の問題については、一〇月二六日、支部との話し合いで、今後支部において出勤時間遵守については、良心的に臨むようにするとの申し入れがあつたので、当局はこれを了として以後、西門閉鎖による管理措置を中止することとしたので、一応の解決をみ、また、業務命令に関する問題についても、支部が文書による業務命令なら服従すると申し入れてきたので、貯金局は理由のないことではあるものの、事務処理推進の見地からこれを了承することとしたので、以後文書命令を受けた職員は、命令通り元通事務に従事するに至り、予定された元通事務は、一一月末までに予定どおり完結された。

右の間の各非違行為とこれに対する国家公務員法の適条は次のとおりである。

1 一〇月二三日関係

(1) 原告木村は、午前八時直後に、西門監視員詰所付近において、折から出勤入局しようとした会計課長羽賀忠郎に対し、「お前はしめつけばかりやりやがつてなんだ。」「門を閉めたり、やれ服務規律の厳守だとか誰が言つているのだ。」「我々は八時三〇分までに出勤すればよいのであるから門を閉めろ。」などの暴言とともにつめ寄り、ひきつづき訴外天野寿太郎と共に、折から午前八時三〇分までに出勤入局しようとする職員のため、開扉されていた西門大扉をほしいままに閉扉し、その入局を妨害もしくは妨害しようとし、更に、これを再び開扉した同課長に対し、「なぜ開けるのか。」と言つて、再びつめ寄つて抗議し

(2) 原告木村は、午前九時五〇分ころ、第一貯金課総括係事務室において、同課長稲葉忠義が同課職員石井彰に対し、口頭で元通事務処理を命じたところ、以後約一〇分間にわたり、同所及び同課長席において同課長に対し「何を根拠に業務命令を出すのか。」「何のための業務命令か。」「口頭業命はありえないし理解できない。文書命令なら従うから文書を出せ。」「今の状態は石井の責任ではなく、執行部の責任、私の責任でとめた。」などと言つてつめ寄つて抗議し

(3) 原告木村、同貢、同沼田は、外数名と共に、午後三時三〇分ころから同四時三〇分ころまでの間、無断で職場を離れ、第六貯金課長席にいた同課長代理加藤新を取り囲み、折からきあわせた管理課長丸岡三二の制止や就業命令を無視しつつ、右課長代理が同課職員菊池正に対し、口頭で元通事務処理を命じたことについて、「口頭による業命は有効なのか。」などと執拗に説明を求めて話し合いを強要し、その間約一時間、故なくその勤務を欠いた。

((1)(2)につき九九条、八二条一号、三号。(3)につき一〇一条一項、八二条各号)

2 一〇月二五日関係

原告木村は、出勤時間前から西門付近にたむろし、出勤時間の午前八時三〇分を経過し、勤務時間となつたのに依然として入局就業することなく、午前八時四五分ころまで同所に居座りを続け、その間、上司の命を受けた伊藤監視員及び佐藤庁舎係長が西門大扉を閉めようとすると、「組合で責任を持つから扉を閉めるな。」「八時四五分までこのままにしておけ。」などと言いながら、自分の身体を右大扉に寄りかからせて閉扉させず、その職務の執行を妨害し、更に、ひきつづき午前九時三〇分ころまでの間、就業場所である第一貯金課調査係事務室に姿をみせず都合約一時間、故なく勤務を欠いた。

(九九条、八二条一号三号、一〇一条一項、八二条各号)

3 一〇月二六日関係

(1) 原告木村、同貢、同沼田、同星上、同二郎は、午前八時三〇分以前の職員の入局を妨害しようと意思相通じたうえ、午前八時一〇分ころ、原告木村、同貢、同沼田の三名が、共同して、折から午前八時三〇分までに出勤入局しようとする職員のため開扉されていた西門大扉をほしいままに閉扉した後、原告星上、同二郎ほか数名の組合員と共に、右大扉の前に一列に立ち並んでピケを張り、また原告貢は、その前後にわたり右大扉前付近で折から出勤入局しようとする職員に対し、貯金局正面玄関前で右原告らが開催中の無届集会に参加するよう説得誘導し、更に、始業時後の午前八時三一分ころには、原告木村は、前記無届集会を終了し、これに参加した職員を西門大扉前付近に引率誘導して同所で立ち止らせた後、原告貢と共に職員を入局させるため西門大扉を開扉し、警備中の第五貯金課長和泉源治第三貯金課長代理早川祥治の両名に対して、午前八時五〇分ころまで、こもごも、「なぜ門を閉めないのか。」「今から閉めないことになつたのか」「早く閉めろ。」「局長を出せ。」などと、西門大扉を閉めるよう再三申し向け、その間、右職員の入局を事実上阻止するなどして職員の入局を妨害し、かつ、原告木村、同貢、同沼田、同星上は、右の間の午前八時三〇分ころから同時五〇分ころまでの約二〇分間、上司の再三の就業命令に従わず、故なく勤務を欠き、

(2) 原告木村、同貢、同沼田、同星上、同二郎は、その勤務時間中であるにもかかわらず、午前一一時一〇分ころ、組合員約八〇名の先頭に立つなどして、これを指揮誘導のうえ、業務課長金子多利蔵、会計課長羽賀忠郎らの制止を聞かず、全逓宮城地区委員長菅原保雄、同書記長馬場治昭らに続いて局長室に乱入し、折から在室執務中の局長石川作助及び局長室に入室してきた管理課長丸岡三二、その他管理者の再三の退去・就業命令にもかかわらず、退去・就業せず、午前一一時五〇分ころまでの約四〇分間、同局長その他の管理者を取り囲んで、こもごも罵声を浴びせつつ集団で面会話し合いを強要し、なお原告木村は、右集団抗議の最中、第一貯金課長稲葉忠義、第三貯金課長神谷和郎に対し、「お前ら何をいうか。」などと語気鋭く迫り、三、四歩後退させるなどした。

((1)につき九九条、八二条一号三号、九八条一項、一〇一条一項、八二条各号。(2)につき九九条、八二条一号三号、九八条一項、一〇一条一項、八二条各号)

4 一〇月二八日関係

原告貢は、午前一〇時五二分ころ、訴外菊地敏夫が第四貯金課長小野勝治に対し、その退去命令にもかかわらずこれを無視し、服務規律につき執拗に話し合いを求めた際、右菊地敏夫からの連絡をうけると、その勤務時間中であるにもかかわらず、直ちに無断職場を離脱して同課長席におもむき、右菊地敏夫と共に、同時ころから同一一時二分ころまでの間、右話し合いを拒否し、退去を求める同課長に対し、「他の課では話し合つているのだから、話し合つたらどうか。」などと言つて、なおも退去することなく、執拗に話し合いを求めてこれを強要し、その間約一〇分間、故なく勤務を欠いた。

(九九条、八二条一号三号、一〇一条一項、八二条各号)

5 一〇月二九日関係

原告貢は、午前九時一〇分ころ、第三貯金課第二原簿係事務室において、同課長神谷和郎、同課長代理早川祥治が、同課職員板橋安雄に対し、元通事務に従事すべき旨の業務命令書を手交しようとするや、その勤務時間中であるにもかかわらず無断離席のうえ、同時一八分ころまで、訴外吉田昌司ほか数名と共に、同課長らを半円形に取り囲み、同課長に対して、「何をするのか。」「業務命令について話をしたい。」「業務命令についての見解を聞きたいのだ。」などと申し向けて、執拗に話し合いを強要し、同課長の右命令書手交の職務を妨害し、その間約六分間、故なくその勤務を欠いた。

(九九条、八二条一号三号、一〇一条一項、八二条各号)

6 一〇月三〇日関係

原告貢は、午前九時二三分ころ、第三貯金課第三原簿係事務室において、同課長神谷和郎が同課員丸山昭代、同庄司つね子に対し、元通事務に従事すべき旨の業務命令書を手交したところ、その勤務時間中であるにもかかわらず、無断離席のうえ、同所に至り、丸山昭代、床司つね子の両名から、右両名が受領したばかりの業務命令書を差し出させて一読のうえ、自己のポケツトにしまいこみ、右両名の面前において同課長に対し、「時間は何時だと思う。こんなものは受け取れない。」「これは無効だから、もう一度出しなおせ。」などと申し向けて右両名に対する右命令書の交付を妨害し、ひきつづき、右手交をもつて業務命令の示達をおえたとする同課長が自席へもどると、これを追つて同課長席におもむき、同課長に対し、「一分、二分はどうでもよいが、こんな業務命令はだめだ。出しなおせ。」などと言いながら、右丸山昭代、庄司つね子に対する業務命令書を同課長席に投げ出し、なおも同課長に対し「管理課長が口頭業命はないと確認した。」「権力によるゴリ押しは課長もこまるだろう。本省から来ているから官も押すのだろう。」などと申し向けて執拗な抗議に及び、その間約一六分間、右両名の就労を阻止するとともに、故なくその勤務を欠いた。

(九九条、八二条一号三号、一〇一条一項、八二条各号)

7 一〇月三一日関係

原告木村は、勤務時間中であり、かつ、第一貯金課長稲葉忠義から再三にわたり就業するよう命じられたにもかかわらず、午前八時三五分ころから同一〇時一〇分ころまでの間、無断職場を離脱して貯金局内支部書記局に在室するなどし、約一時間三五分にわたり、その勤務を欠いた。

(九八条一項、一〇一条一項、八二条各号)

8 一一月六日関係

原告貢は、午後三時一八分ころから同時五八分ころまでの間、恩給課長室において、折から執務中の同課長塩谷邦治に対し、「調査係員を増員したことについて、その理由を聞きたい。」と話し合いを求め、同課長がこれを拒否して、再三退去を命ずるのに、右命令を無視し、「官の権力をあくまでふるつて来るのか。」「退去命令はなにのために出すのか。」などと言いながら、執拗に話し合いを強要した。

(九九条、八二条一号三号)

9 一二月二日関係

(1) 原告木村、同星上の両名は、午前一〇時四〇分ころから同一一時三分ころまでの間、その勤務時間中であるにもかかわらず、無断で職場を離れ、訴外伊藤茂人外数名の組合員をともない、第一貯金課長席に至り、同課長稲葉忠義に対して、「課長話し合いをしたい。」と申し向け、同課長が「勤務時間中であるから応じられない。自席にもどつて仕事をせよ。」と言つて話し合いを拒否し、再三にわたり退去・就業を命じたのにこれに従わず「なぜ、話し合いをしないのか。」「職場の明朗化を望まないのか。」などと執拗に話し合いを強要し、その間約二三分間、故なく勤務を欠き、

(2) 原告貢は、午後三時一〇分ころから、同時二八分ころまでの間、その勤務時間中であるにもかかわらず、無断で職場を離れ、訴外箱崎満治外数名の組合員と共に、第三貯金課長席に至り、同課長神谷和郎に対し、「課長に話がある。」「先日の超勤以来、全然話をしないし、権力だけでやつてきた。」「今後、どうやつて行くのか知りたい。」などと申し向け、同課長が勤務時間中であるからとこれを拒否し、再三にわたり退去・就業を命じたのにこれに従わず、「今後は権力だけで仕事をやつていくつもりか、課長だまつていてはわからない。」「命令の根拠は何だ。説明せよ。課長はツンボになつたか。」などとなおも執拗に話し合いを強要し、この間約一八分間、故なく勤務を欠くなどした。

((1)(2)ともに九九条、八二条一号三号、九八条一項、一〇一条一項、八二条各号)

10 一二月五日関係

原告沼田は、訴外菊池敏夫と共に、午前一〇時ころ、組合員一二名を引き連れて、第四貯金課長席を取り囲み、同課長小野勝治に対し服務規律問題について話し合いを求め、これを拒否する同課長に対し、右菊池敏夫が「課内の明朗化について話し合つてくれ。」「確約違反だ。」「権力でしめつける気か。」などと申し向けるのに応じて、これに同調同旨の発言をして、なおも執拗に話合いを要求し、同一〇時一〇分、休息時間が終了し、就業時間に入つた後の同時二七分頃までの間、同課長が話合いを拒否し、退去・就業を命ずるのにこれを無視し、右菊地が「課長の約束違反をトコトンまで追求する。」などと反復申し向けるのに応じてこれに同調同旨の発言をして執拗に話合いを強要し、その間約一七分間、故なく勤務を欠いた。

(九九条、八二条一号三号、九八条一項、一〇一条一項、八二条各号)

11 一二月七日関係

原告沼田は、訴外菊地敏夫と共に、午前一〇時ころ、組合員約七〇名を誘導して、第四貯金課長席を取り囲み、同課長小野勝治に対し服務規律問題について話合いを求め、これを拒否する同課長に対し、右菊地敏夫が、「課長課内の問題については、今後話し合つて円満にやつていくと約束しながら、話し合いに応じないのはどういうわけか。」などと申し向けるのに応じて、これに同調同旨の発言をしてなおも執拗に話合いを要求し、同時二〇分、休息時間が終了し、右約七〇名の組合員が退去・就労した後の同時三六分ころまでの間、同課長が話合いを拒否し、退去・就業を命ずるのにこれを無視して、右菊地敏夫外九名の組合員と共に、居座りを継続し、前同様右菊地が「課長が約束違反の責任をとらないうちは、毎日休息時間などに追及に来るし家庭にも押しかけて行く。」などと反復申し向けるのに応じて、同調同旨の発言をして執拗に話合いを強要し、その間約一六分間、故なく勤務を欠いた。

(九九条、八二条一号三号、九八条一項、一〇一条一項、八二条各号)

(二)  同年一二月一〇日以降同月二六日までの非違行為とその背景について

この間における原告らの非違行為は、原告らが、貯金局支部役員として、全逓本部の指導に従つて年末闘争を展開するにあたり、前記元通事務処理等に関し、不当に盛り上げた組合員の管理者に対する故なき反発反感の余勢をかつて当局に対し、更に強力な勢威を示すべく、殊更に違法性の明白な庁内デモ戦術を選択実行したうえ、当然に予想された管理者の警備体制の弱点を衝いて、殊更に命令を無視し、職場秩序を紊乱し、管理者に一層の威迫を試みるなど、当初より極めて意図的、かつ計画的に敢行されたものということができ、その大半は、庁舎内デモ関係がこれを占めるが、左に外形的経緯を略述すると、

(イ) 全逓の昭和三八年年末闘争の主目標は、年末手当などの諸要求に絡めて、特定郵便局舎を改善するために簡易保険積立金を融資する郵政省の措置、いわゆる簡保転貸債について反対することでもあつた。

全逓は、同年一二月八日、第三一回臨時中央委員会において年末闘争の具体的闘い方として、一二月一日以降決行中の三六無協定戦術の徹底実施と将来の業務規制戦術、職場大会戦術、局内座り込み戦術、集中的集団交渉、庁内デモなどを行うことを決定し、右戦術を展開していつた。

(ロ) 支部も、右戦術指令に基づいて数々の年末闘争戦術を敢行したものであるが、前記事情から、特に一二月一一日以降、一三日、一六日、一七日、一八日、一九日、二〇日、二一日、二三日、二四日、二五日、二六日と庁舎内無許可デモ、これにひきつづく庁舎内無許可職場集会を連日一〇余日に及んで敢行し、時にこれが現認監視にあたる管理者に対し、多数をたのんで威迫暴行を加えるなどの所為にすらおよび、更にはビラ貼り、集団抗議などの非違を反復した。原告らは、右庁舎内デモなどに際し、支部役員として多数組合員を集合扇動し、これを指揮誘導のうえ自らもこれに加わつて以下の非違行為を敢行したものである。

右の間の各非違行為とこれに対する国家公務員法の適条は次のとおりである。

1 一二月一〇日関係

(1) 原告木村、同星上は、訴外天野寿太郎と共に、午前一一時五〇分ころ折から課長以上全管理者が参集して局議開催中の局長室に無断で立ち入り、その後、午後零時五分ころまでの約一五分間、管理課長丸岡三二の再三にわたる退去命令にもかかわらずこれを無視し、在室した管理者に対し、原告木村において、「講堂の使用を申し入れたのに不許可とした上、鍵をかけるとは何事だ。直ちに開けよ。」「よし、此処でやるか。」などと、原告星上において、「けしからん。」「もつてのほかだ。」などと大声で抗議し、かつ、局議中断をさせて、右管理者の職務を妨害し

(2) 右にひきつづき、原告木村、同貢は、共同して午後零時一〇分ころ、局長室前廊下に三五〇名前後の多数組合員を参集させ、同時一八分ころから同時五四分ころまでの間、第五貯金課長和泉源治及び第三貯金課長神谷和郎の再三にわたる解散命令にもかかわらずこれを無視して、無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、マイクを用いて当局の講堂使用不許可を批難し、年末闘争に向けて団結を訴えるアジ演説をするなどし、原告貢は、音頭をとつて右組合員に「がんばろう」の歌を三回合唱させるなどした。

2 一二月一一日関係

(1) 原告木村、同貢、同沼田、同星上、同二郎は、訴外高橋幸夫、菊地敏夫、橋本万作らと共同して、午後零時一五分ころから同時二三分ころまでの間、及び同時五八分ころから同時五九分ころまでの間、組合員約七〇名からなるデモ隊の先頭に立ち、呼笛を吹きなどしてこれを指揮誘導し、庁舎三階局長室前から管理課事務室を経て西側階段に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デテ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し

(2) 右庁内デモ行進の際

(イ) 原告木村は、午後零時二二分ころ、次長室前防火扉付近で警備中の国民年金課長奥田慶三郎に近寄り、同人を左腕で強く壁に押しつけ、さらに、同人の耳元で呼笛を携帯マイクを通して強く吹き鳴らすなどし

(ロ) 原告貢は、午後零時二三分ころ、局長室前で警備中の国民年金課長代理江口正治の胸を左肘で強く押し、続いて同所で同じく警備中の第四貯金課長小野勝治を左肩で強く押すなどし

(ハ) 原告二郎は、午後零時二二分ころ、次長室入口前付近で警備中の第六貯金課長代理加藤新及び第七貯金課長代理早坂正の両名の胸付近をいずれも左肩でこすりつけるなどし

もつてそれぞれ暴行し

(3) 原告木村、同貢は、共同して右庁内デモ行進にひきつづき、同時二三分ころから同時五八分ころまでの間、管理課長丸岡三二らの解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を三階局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、自ら音頭をとり、右組合員に「団交に応じろ。」「無能管理者直ちに帰れ。」などのシユプレヒコールや「全逓歌」の合唱をさせたり、「この坐り込みとデモは毎日かけ、団交するまで続けます。」などとアジ演説を行い、原告貢は、管理課長丸岡三二の原告木村に対する解散命令書手交を妨害し、警備中の管理者に対し、「集団交渉を受けたいものは出て来い。」などと怒鳴りあるいは右組合員に対し「簡保転貸債反対」などについてのアジ演説を行うなどした。

3 一二月一三日関係

(1) 原告木村、同貢、同星上、同二郎は、訴外高橋幸夫、菊地敏夫、橋本万作らと共同して、午後零時一〇分ころから同時三四分ころまでの間、及び同時四八分ころから同時五八分ころまでの間、組合員約一四〇名からなるデモ隊の先頭に立ち、呼笛を吹きなどしてこれを指揮指導し、庁舎三階西側階段から管理課事務室を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁舎内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し

(2) 右庁内デモ行進の際

(イ) 原告木村は、

午後零時二六分ころ、次長室前防火扉付近で、はずみをつけて第四貯金課長小野勝治の胸に右肘付近から強く体当りし、次長室入口付近で同様、はずみをつけて恩給課長塩谷邦治に両肘をはつて体当りし、更に、次長室入口付近で一列に並び警備中の第五貯金課長代理伊山栄、第三貯金課長神谷和郎、恩給課長代理高橋惣八郎、第七貯金課長植松幹、同課長代理早坂正らを壁やドアーに強く押しつけるなどし、

同時四六分ころから同時五〇分ころまでの間、その指揮するデモ隊と共に、第三貯金課長代理早川祥治を国民年金課調査係事務室、管理課事務室、更に廊下と執拗に追い廻し、逃げ場を失つた同課長代理を国民年金課調査係入口扉や次長室入口扉に押しつけたり、その顔に呼笛を近づけて強く吹き鳴らすなどし、

同時五三分ころ、次長室前防火扉付近で、再び第四貯金課長小野勝治に対し右肩で体当りを加え

午後零時五五分ころ、管理課事務室において、原告星上、訴外橋本万作らと共同して、その指揮するデモ隊と共に、国民年金課長代理江口正治を取り囲み、その周囲を「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声や呼笛とともにうずまき行進をして洗濯デモをかけ

同時五八分ころ、会議室前で、原告星上と共に指揮するデモ隊をして、国民年金課長奥田慶三郎を壁に押しつけ、更に、原告星上と二人で、逃げる同課長を追つて、上膊部を押しつけるなどし

第六貯金課長瀬上五郎の上膊部を右肩で押すなどし

(ロ) 原告星上は、

午後零時五五分ころ、管理課事務室において、原告木村、訴外橋本万作と共同して、その指揮するデモ隊と共に、国民年金課長代理江口正治を取り囲み、その周囲を「ワツシヨイ、ワツシヨイ」と掛声や呼笛とともにうずまき行進をして洗濯デモをかけ

同時五八分ころ、会議室前で、原告木村と共同して、その指揮するデモ隊とともに、国民年金課長奥田慶三郎を壁に押しつけ、更に、原告木村と二人で、逃げる同課長を追つて、上膊部を押しつけるなどし

(ハ) 原告二郎は、

午後零時二七分ころ、次長室前廊下付近で、第四貯金課長小野勝治の胸を右肩で強く押しつけ、訴外菊地敏夫と共同して同時五三分ころから同時五七分ころまでの間、管理課庶務係入口付近で、第四貯金課長小野勝治、第七貯金課長植松幹の面前に立ちふさがり、右両名の耳元近くで呼笛をはげしく吹き鳴らし、同時五八分ころ、その同所で、第四貯金課長小野勝治の胸を右肩で押しつけるなどし、もつてそれぞれ暴行し、

(3) 原告木村、同貢は、庁内デモ行進にひきつづき、午後零時三四分ころから同時四八分ころまでの間、管理課長丸岡三二らの解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を局長室前に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、右組合員をして「がんばろう」の歌を合唱させたり、公労協関係闘争情況の報告演説を行うなどし、また、原告貢は、前記管理者の解散命令伝達を呼笛を強く吹いて妨害するなどした。

(4) 原告木村は、

(イ) 原告二郎ら外一〇名前後の組合員と共に、局長室前で坐り込みの後、午後五時二二分ころから同時二九分ころまでの間、二回にわたり次長室前廊下で、右組合員らを指揮して、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ自らも実行し、

(ロ) 右庁内デモ行進の際、原告木村、同星上、同二郎は、同時二二分ころ、他組合員とスクラムを組んで、折から次長室ドアーを背に警備中の管理課長代理大友重次郎並びに人事係長高橋定雄を強く壁に押しつけたり、右両名の耳元で交互に呼笛をはげしく吹くなどし、ひきつづき同時二四分ころ、右同様、他組合員と共に、スクラムを組んで、折から同所付近で警備中の第四貯金課長小野勝治を管理課庶務係ドアーと防火扉の間の壁に強く押しつけ、更に、同時二六分ころ、原告沼田も加わつて、右同様、他組合員と共にスクラムを組んで、再び管理課長代理大友重次郎を次長室ドアーに強く押しつけ、ついで恩給課長塩谷邦治を次長室前の壁に強く押しつけるなどして暴行した。

4 一二月一四日関係

(1) 原告貢は、訴外高橋幸夫らと共同して、午後二時二〇分ころ、恩給課事務室廊下側窓ガラスに「簡保資金転貸反対」のステツカー一〇枚をほしいままに貼付し、おりしもこれを現認した会計課長羽賀忠郎から、その撤去を命ぜられたにもかかわらずこれを無視して逃走し

(2) 原告貢、同沼田は、訴外高橋幸夫、橋本万作と共同して、午後三時三〇分ころ、第二貯金課第二原簿係事務室南側窓ガラスに、「簡保資金転貸反対」のステツカー九枚をほしいままに貼付し、かつ、これが中止を命じた第三貯金課長神谷和郎や郵政省貯金局林事務官に対し、「氏名を明らかにせよ。交渉に応じろ。」「なぜ止めるのか。」などと抗議した。

5 一二月一六日関係

(1) 原告木村、同貢、同沼田、同星上、同二郎は、共同して、午後零時一六分ころから同時二五分ころまでの間、及び同時五四分ころから同時五七分ころまでの間の二回にわたり、組合員約一二〇名からなるデモ隊を一隊もしくは二隊としてその先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側廊下、管理課事務室を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し、

(2) 原告木村、同貢は、庁内デモ行進にひきつづき、午後零時二五分ころから同時五四分ころまでの間、管理課長丸岡三二らの解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、自ら音頭をとり、右組合員に「がんばろう」、「全逓歌」の合唱や「局長団交に応ぜよ。」「ここにいる管理者直ちに帰れ。」などのシユプレヒコールをさせたり、「仙台貯金の管理者は無能で悪らつである。」などとアジ演説を行うなどし、また原告貢は、前記管理課長丸岡三二らの解散命令伝達を呼笛を強く吹いて妨害するなどした。

6 一二月一七日関係

(1) 原告木村、同貢、同沼田、同星上は、共同して午後零時一四分ころから同時二〇分ころまでの間、及び同時四五分ころから同時五八分ころまでの間の二回にわたり、組合員約一一〇名からなるデモ隊を一隊もしくは二隊としてその先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段から管理課事務室を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ自らこれを実行し

(2) 原告木村、同貢は、庁内デモ行進にひきつづき、午後零時二〇分ころから同時四五分ころまでの間、管理課長丸岡三二らの解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、自ら音頭をとり、右組合員に「がんばろう」や「全逓歌」を合唱させたり、簡保転貸債問題についての状況報告演説を行うなどした。

(以上1ないし6はいずれも九九条、八二条一号三号)

7 一二月一八日関係

(1) 原告木村、同貢、同星上、同二郎は、共同して、午後零時一三分ころから同時一九分ころまでの間、及び同時五五分ころから同時五九分ころまでの間の二回にわたり、組合員約八〇名からなるデモ隊を一隊もしくは二隊として、その先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段、管理課事務室を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ自らこれを実行し、

(2) 原告木村、同貢は、右デモ行進にひきつづき、午後零時一九分ころから同時五五分ころまでの間、業務課長金子多利蔵らの解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を局長室前廊下に坐り込ませて、無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、自ら音頭をとり、右組合員に「がんばろう」や「全逓歌」などを合唱させ、仙台郵便局の闘争状況などに関する報告演説を行い、また、原告貢は、前記業務課長金子多利蔵の解散命令伝達を呼笛を強く吹いて妨害するなどした。

(3) 右無届集会開催中の午後零時三一分ころ、訴外大野昭治の指揮誘導する簡保支部組合員約一〇〇名のデモ隊が、右集会場所である貯金局長室付近廊下にさしかかつた際、右デモ隊の最前列の三名が所持していた旗竿の右端が、右無届集会の解散を命じていた第二貯金課長渡辺俊明の左腹部に当つたため、同課長が、「痛い。痛い。」と声を発したことに関連し、午後一時二〇分ころ、簡保支部役員三名が同課長に受傷の有無を究明すると称し、第二貯金課事務室内の同課長席に至つた際、

(イ) 原告木村、同貢、同沼田、同星上、同二郎は、いずれもその勤務時間中であり、かつ、同事務室では多数職員が職務に従事中であるにもかかわらず無断離席してこれに加わり、同課長を取り囲んだうえ、同課長に対し、こもごも執拗に話合いを求め、第一貯金課長稲葉忠義ら管理者の再三にわたる退去・就業命令を無視して難詰を続け、午後一時四〇分ころ及び午後二時過ぎころ同課長が局長に呼ばれて局長室におもむこうとするや、「まだ、話は終らない。行くなら返事をして行け。」「人が面会に来ているのにだまつて行くのか。」などと騒ぎながら、その進路前面に立ちふさがつてその進行を妨害し、ひきつづき午後四時四五分ころまで、同課長に対し話合いを強要し、その間、故なく勤務を欠き

(ロ) 右の間、訴外大野昭治が、多数簡保支部組合員を同事務室に招集した際、右大野の「保険支部組合員六七〇名はあくまで真相を究明する。貯金管理者の責任を追求する。」などのアジ演説にひきつづき、原告木村は、午後三時三五分ころから同時五〇分ころまでの間、同所にあつた会議用卓子に上り、携帯用マイクを用いて、参集した右組合員に対し「簡保支部の皆さまご苦労さまです。」「ただ今、簡保の大野支部長が説明したとおり、明らかに官が簡保支部に挑発し組織の分断を図つてデツチ上げたものであり、簡保支部を侮辱したものである。」「私はこのようなデツチ上げに対してあくまでも戦つて行く覚悟である。」などと大声でアジ演説を行い、もつて、右大野と共同して無届集会を開催実施し

(ハ) 原告木村、同貢、同沼田、同星上、同二郎は、右1、2の行為により職務に従事中の第二貯金課長渡辺俊明及び第二貯金課職員の各職務の執行を妨害した。

(以上のうち、就業命令違反と欠務は九八条一項、一〇一条一項、八二条各号。その余は九九条、八二条一号三号)

8 一二月一九日関係

(1) 原告木村、同貢、同沼田は、共同して、午後零時五分ころから同時一〇分ころまでの間、組合員約三〇名からなるデモ隊の先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声とともに騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し

(2) 原告木村、同貢は、右デモ行進にひきつづき、午後零時一〇分ころから同一時ころまでの間、管理課長丸岡三二らの解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を、折から同所に参集していた組合員約三〇〇名及び簡保支部組合員約二五〇名と共に、局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、「二貯課長事件についてこれは官のデツチ上げである。」旨のアジ演説を行い、更に、右組合員に「がんばろう」の歌を合唱させるなどし、また原告貢は、「渡辺二貯課長傷害デツチ上げ事件抗議集会を開催する。」旨開会宣言し、以後、ひきつづき、同集会の司会進行を行い、あるいは右管理課長の解散命令伝達を呼笛を強く吹き鳴らして妨害するなどした。

9 一二月二〇日関係

(1) 原告木村、同貢、同沼田は、共同して、午後零時一三分ころから同時二〇分ころまでの間、組合員約一五〇名からなるデモ隊の先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し、

(2) 原告木村、同貢は、右デモ行進にひきつづき、午後零時二〇分ころから同時五〇分ころまでの間、管理課長丸岡三二の解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を簡保支部組合員約一〇〇名と共に、局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、「これから簡保積立金転貸反対と二貯課長事件について抗議集会を行う。」と宣言し、以後、司会を担当した。

10 一二月二一日関係

原告木村、同沼田は、共同して、午前一〇時二分ころから同時二〇分ころまでの間、組合員約一六〇名からなるデモ隊の先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段から管理課事務室及び業務課事務室前廊下を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行した。

11 一二月二三日関係

(1) 原告木村、同沼田、同星上は、共同して、午後零時一七分ころから同時二〇分ころまでの間、組合員約一四〇名からなるデモ隊の先頭に立ち呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し、

(2) 原告木村は、右デモ行進にひきつづき、午後零時二〇分ころから同時五七分ころまでの間、管理課長丸岡三二らの解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を簡保支部組合員約一〇〇名と共に、局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は「全逓の切り崩しを図る省の方針、当局の管理者が悪らつにも組合に挑発をかけてきている。」などとアジ演説を行い、組合員に「幸せの歌」「若者の歌」を合唱させるなどした。

(以上8ないし11につきいずれも九九条、八二条一号三号)

12 一二月二四日関係

(1) 原告貢、同沼田は、午前一〇時五〇分ころから、原告木村は、同時五三分ころから、また、原告星上は、午前一一時ころから、それぞれ、同時二〇分ころまでの間、いずれもその勤務時間中であるにもかかわらず、訴外菊地敏夫らと共同して、貯金局正面玄関入口に組合員がほしいままに貼付した、「簡保資金転貸反対」のビラの撤去作業に従事していた会計課長羽賀忠郎に対し、同課長及び管理課長丸岡三二の退去・就業命令を無視しつつ、「雑務手にビラをはがさせるな。」「ビラは組合のものだ。はがすのはやめろ。」などと執拗に抗議し、その間約三〇分間、故なく勤務を欠き

(2) 原告木村、同貢、同沼田は、共同して、午後零時一三分ころから同時一六分ころまでの間、及び同時五五分ころから同時五九分ころまでの間の二回にわたり、組合員約三五名からなるデモ隊の先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し

(3) 原告木村、同貢は、右デモ行進にひきつづき、午後零時一六分ころから同時五五分ころまでの間、管理課長丸岡三二の解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を簡保支部組合員約七〇名と共に局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、「本省の林、恫喝するな。」と怒鳴つたり、「貯金の管理者と保険局の管理者の違いがわかる。簡保の管理者は、二、三人だけだ。貯金は、こんなに多勢でている。」などとアジ演説を行い、更に、右組合員に「がんばろう」の歌を合唱させるなどした。

(以上のうち、就業命令違反と欠務につき九八条一項、一〇一条一項、八二条各号。その余は九九条、八二条一号三号)

13 一二月二五日関係

(1) 原告木村、同貢、同沼田、同星上は、共同して、午後零時一二分ころから同時二〇分ころまでの間、組合員約六六名からなるデモ隊の先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段を経て局長室前に至る間、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し

(2) 原告木村、同貢は、右デモ行進にひきつづき、午後零時二〇分ころから同時五七分ころまでの間、管理課長丸岡三二の解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、全逓情報を読み上げて報告演説をしたり、管理者に対し、「こんな管理者は全員追放だ。課長代理も場合によつては課長なみに扱うから覚えておけ。」などと、アジ演説をした。

14 一二月二六日関係

(1) 原告木村、同貢、同沼田は共同して、午後零時一五分ころから同時二〇分ころまでの間、組合員約七五名からなるデモ隊の先頭に立ち、呼笛を吹きなどして指揮指導し、庁舎三階西側階段を経て局長室前に至る間「ワツシヨイ、ワツシヨイ」の掛声をかけるなどして騒然と庁内デモ行進をさせ、かつ、自らこれを実行し

(2) 原告木村、同貢は、右デモ行進にひきつづき、午後零時二〇分ころから同時五七分ころまでの間、管理課長丸岡三二の解散命令にもかかわらずこれを無視し、右デモ隊を局長室前廊下に坐り込ませて無届集会を開催継続し、その間、原告木村は、右集会の司会を行うなどし、また、原告貢は、経過報告を行うなどした。

(以上13、14につきいずれも九九条、八二条一号三号)

三  処分説明書の記載について

原告らは、処分説明書の処分事由の記載が、「……する等」と表現されている点をとらえて、右は国公法八九条一項の要求する処分事由の記載としては、不明確、不特定であるから、本件懲戒処分の手続上の重大かつ明白な瑕疵を構成し、ひいては、同処分全体を無効ならしめる旨主張する。

しかしながら、処分説明書の交付自体は、処分の要件ではなく、たとえ、その交付がなされなかつた場合でも、処分の効力に消長を来すものでないことは、判例、学説の一致した見解であるところ、本件処分においては現実にその交付がなされ、主たる処分事由についても、具体的にこれを特定掲記しているのであるから、「等」なる表現をもつて表記した残余の非違行為が、たとえ具体性に欠けるとしても、それ故に処分全体が無効とされるいわれはない。

四  処分上申手続について

原告らは、本件懲戒処分は、職員懲戒処分規程第一一条に定める処分上申手続がとられずなされたものであるから、無効であると主張するが、右規程第一一条は所属長に対し、職員に非違行為があると認められる場合の報告を義務づけ、あわせて当該非違行為の処分事由該当性の有無や処分に付することの当否、処分に付する際の量定等に関する意見具申を義務づけることにより、懲戒権者が速やかに職員の非違行為をは握し、適正に懲戒権を行使することによつて、勤務関係秩序の維持に支障なからしめんとする趣旨に出るものであり、右上申手続の履践を処分要件として、懲戒権行使を制約しようとするものでないことは、規定上、明らかであり、右上申をまつまでもなく、懲戒権者が自ら職員の非違行為をは握し、懲戒権を行使すべきものと判断したときは、自由に懲戒権を行使することに、何の支障もないのである。

而して、本件処分は、郵政大臣が仙台地方貯金局長から、現認書、実態調書等の送付を受け、その権限に基づいて処分事由の存否等を判断してなしたものであるから、何ら違法は存しない。

五  不当労働行為の主張について

本件処分が原告らの前記数々の非違行為を理由としてなされたものであること原告らの非違行為は、それが他の組合員と共になされた場合でも、その態様、程度、結果等、すべての面において、他組合員のそれと比較することのできないまでに執拗であり、悪質であること、原告らは組合員並びに組合活動の指揮指導者として、いやしくも組合員らが違法な組合活動に走るおそれのあるときは、敢然これを説得中止させるべきであるのに、これとは逆にその指導的立場を利用して多数組合員を扇動し、自ら率先垂範して多数組合員を違法な集団行動にかりたてたことなどに鑑みれば、原告らの責任並びに情状を論ずるによく他の一般組合員のそれをもつて比較し得べきものではないことは、何人の眼にも明々白々といわざるを得ない。

六  懲戒権濫用について

本件事案は、非違行為の程度および態様が大きく情が重いものであつて、本件各懲戒処分が懲戒権の濫用にあたるということはない。

七  原告らは、処分説明書に記載のない事項は、訴訟上、懲戒処分事由として、主張できない旨主張するが失当である。

なるほど、懲戒処分の取消を求める行政訴訟事件において、右同旨の説示をする裁判例も他にないではないが、右見解は、被処分者の処分手続上の利益を重視する余り、懲戒処分の取消訴訟の訴訟物が、処分の違法性そのものであつて、処分説明書記載の処分事由の存否ではないことの基本原理を歪め、懲戒権者が主張立証責任を負うところの処分事由の主張立証に際し、法文上の根拠は何らないのに、これを不当な制約を課そうとするもので、誤りというほかないのであり、懲戒権者は、懲戒処分の適法性を主張立証するために、処分説明書の記載とかかわりなく、処分当時存在したすべての懲戒事由を主張立証できるものと解するを、正論とすべきである。

仮に原告ら主張のとおりとしても、これは取消訴訟についてのみ妥当するものであり、処分の無効確認訴訟もしくは処分の無効を前提とする当事者訴訟に、当然に妥当するものでないばかりか、かかる見解をとることは、終局的に処分説明書記載の仕方の不十分の故をもつて、当該処分を無効とすることを承認することともなり、前記(一)に述べた処分説明書の不交付をもつて、無効事由となし得ないことと対比しても、不都合、不合理であることは明らかである。

第四証拠 <略>

理由

一  原告木村が仙台地方貯金局第一貯金課に、原告沼田が同局第四貯金課に、原告貢が同局第三貯金課に、原告星上が同局第一貯金課に、原告二郎が同局恩給課に各所属する郵政事務官であつたところ、郵政大臣が昭和三九年一月二五日に、原告木村と原告貢については免職、原告沼田については停職六月間、原告星上と原告二郎については停職一〇月間という内容の懲戒処分をしたことは当事者間に争いがない。

二  <証拠略>によると、本件各懲戒処分の処分事由は、懲戒処分に当つて原告らに交付された説明書によれば、

原告木村については「昭和三八年一〇月二三日頃から同年一二月二六日頃までの間、多数の同局職員を指揮し、再三にわたる同局管理者の命令に反し、しつように話し合いを強要、庁内示威行進、坐り込み、職場集会を繰り返し、あるいは管理者の職務の執行を暴力をもつて妨害する等して著しく職場の秩序をびん乱したものである。」と、

原告沼田については「昭和三八年一〇月二三日頃から同年一二月二六日頃までの間において再三にわたり上司の職務上の命令を拒否して、しつように庁内示威行進、坐り込みを行ない、あるいは、同局管理者に抗議を行なう等して職場の秩序をびん乱したものである。」と、

原告貢については「昭和三八年一〇月二三日頃から同年一二月二六日頃までの間多数の同局職員を指揮し、再三にわたる同局管理者の命令に反し、しつように話し合いの強要、庁内示威行進、坐り込み、職場集会を繰り返し、あるいは管理者の職務の執行を妨害する等して著しく職場の秩序をびん乱したものである。」と、

原告星上については「昭和三八年一〇月二三日頃から同年一二月二六日頃までの間において再三にわたり上司の職務上の命令を拒否して、しつように庁内示威行進、坐り込みを繰り返し、あるいは集団の威力をもつて管理者を取り囲み、その自由を拘束する等して、職場の秩序を著しくびん乱した……。」と、

原告二郎については「昭和三八年一〇月二三日頃から同年一二月二六日頃までの間において再三にわたり上司の職務上の命令を拒否して、しつように庁内示威行進、坐りこみを繰り返し、あるいは集団の威力をもつて管理者を取り囲み、その自由を拘束する等して職場の秩序を著しくびん乱した……。」

というもので、原告木村と原告貢については国家公務員法八二条、原告沼田、同星上、同二郎については国家公務員法八二条および人事院規則12―0を根拠法令としていることが認められる。

原告らは、本件各懲戒処分が無効である理由として、処分説明書に記載された処分の理由が不明確であること、処分上申手続の欠如、処分理由該当事実の不存在、不当労働行為、懲戒権の濫用を掲げている。

ところで、郵政職員など現業国家公務員を含めて国家公務員に対する任命権者による懲戒処分は行政処分であつて、これが無効となるためにはその処分につき重大でかつ明白な瑕疵が存することを要する(最高裁昭和四九年七月一九日判決、民集二八巻五号八九七頁参照)。原告ら主張の無効事由のうち処分理由該当事実の不存在は、原告ら主張のとおりであれば懲戒処分を無効ならしめるものであるし、この該当事実の存否は他の無効事由を考慮するに当つての前提となるから、まずこの点について判断する。

本件各懲戒処分の頃、原告木村が全逓信労働組合仙台地方貯金局支部(以下「組合支部」という。)の支部長、原告沼田が同副支部長、原告貢が同書記長、原告星上と原告二郎が同執行委員であつたことは当事者間に争いがない。

<証拠略>を綜合すると、昭和三八年当時、仙台地方貯金局の組織は、局長の下に次長が置かれ、管理課、業務課、会計課、第一貯金課、第二貯金課、第三貯金課、第四貯金課、第五貯金課、第六貯金課、第七貯金課、恩給課、国民年金課があつて各課長が置かれているほか課長の下に課長代理や各係別の係長が置かれていることが認められ、<証拠略>によると、組合支部は組合員九七〇名を擁し、全逓信労働組合中央本部(以下「組合本部」という。)の傘下にあることが認められる。

三  昭和三八年五月、郵政省が元通事務を同年八月一日から実施することとし、これに関して郵政省と組合本部、仙台地方貯金局と組合支部との間で交渉が行われたことは当事者間に争いがない。また、<証拠略>によると、昭和三八年八月に郵政省は簡易保険の積立金を特定郵便局の局舎建築資金として貸付けるところのいわゆる簡保転貸債制度の実施を決定したことが認められる。

ところで、<証拠略>を総合すると以下の事実が認められる。

郵政省は元通事務を一一月末日まで完了せしめること、この事務のための新たな定員措置を講じることなく、右事務導入により従来の現在高確査(又は対照)事務が廃止されたことに伴う手すき時間を利用するほか超過勤務や非常勤職員の採用などの方法をとること、等の基本方針を決めたが、仙台地方貯金局においては、組合支部の要望を容れて、八月中は非常勤職員のみにより右事務処理にあたらせ、その状況をみたうえで九月以降の処理計画を決めることとし、非常勤職員二五名を採用して右事務処理にあたらせた。しかしその結果は計画量の八パーセントを処理できたのみで思わしくなく、九月に入つてからは常勤職員に超過勤務を命じて処理させることもしたが九月中旬において計画の二八パーセントを処理できたに過ぎず、他の地方貯金局が平均五〇パーセント達成しているのに比し遅滞が目立つた。そこで仙台地方貯金局においては、非常勤職員の採用および常勤職員の超過勤務に加えて常勤職員につき通常の勤務時間内に右事務処理にもあたらせることとし、九月一四日頃組合支部にその了解方と協力を申し入れたが、組合支部では組合本部からの回答を得られないという理由のもとにこれを拒否し、そのため新たな執務体制がとれないまま九月末日を迎え、このままでは一一月末日までに右事務を完了させる見込がなくなつた。そこで仙台地方貯金局においては、職員に対する業務命令によつて元通事務処理に従事させるとともに、あわせて従来とかく放漫であつた勤務時間について出勤時間を厳守させることによりこれを改めさせ、もつて右の処理目標を達成せしめることとし、一〇月一七日から二二日にかけてこの旨を組合と全職員に伝達した。そして同月二三日から口頭で、同月二九日からは文書で、職員に対し個別的に元通事務に従事するよう業務命令を出し、また、午前八時三〇分になると西側通用口の大門を閉じて出勤時間に遅れた職員の規制を開始した。

四  <証拠略>を総合すると以下の事実が認められる。

仙台地方貯金局による前記措置に対し、組合支部は強く反撥し、業務命令の伝達や管理者による出勤時間規制に抗議するほかこれを妨害するための行動を開始した。そのうち原告らが関与したものは次のとおりである。

(一)  昭和三八年一〇月二三日午前八時頃、仙台地方貯金局西側通用門付近において原告木村は、仙台地方貯金局会計課長羽賀忠郎に対し大声で「お前は、しめつけばかりしやがつて、なんだ、門を閉めたり、やれ服務規律の厳守だとか、だれがこんなことを言つているのだ、局長か、局長が来てるだろう。局長を呼べ。」「我々は八時半までに来りやいいんだから八時半になつたらお前が開ければいいのだから門を閉めろ」などと申し向けたうえ同伴していた組合支部執行委員天野某と共同で登庁者のために開かれていた大門をほしいままに閉め、羽賀会計課長から「なぜ閉めるんだ、開けろ」と注意されるや「お前が八時半になつたら開けりやいいのだ」と答え、これに引続いて羽賀会計課長が門を開くや「しめつけばかりしやがつて」と言い乍ら同所を立ち去つた。

(この事実については<証拠略>)

同日午後三時三〇分頃、仙台地方貯金局第六貯金課長席付近において、原告木村、原告沼田、原告貢は、ほか数名の者と共に同局第六貯金課課長代理加藤新を取り囲み、同課長代理が菊池正事務官に対して元通事務に従事するよう口頭で業務命令を出したことについて、特殊事務に対する命令はあるのか、超勤の命令は出せるのか、口頭による業務命令は有効なのか、ということを約一時間にわたり述べて話し合いを強要した。

(この事実については<証拠略>)

(二)  昭和三八年一〇月二五日午前八時四〇分頃、仙台地方貯金局西側通用門付近において、原告木村は、同局監視員伊藤某および同局会計課庁舎係長佐藤運吉が大門を閉めようとするのをこれに寄りかかるなどして約五分間妨害した。

(この事実については<証拠略>)

(三)  昭和三八年一〇月二六日午前八時一〇分頃から八時三〇分頃までの間、原告木村、原告沼田および原告貢は、仙台地方貯金局西側通用門付近において、出勤する職員のために開かれていた大門をほしいままに閉じ、ほか数名の組合支部役員とともに大門の前に立ちならび、出勤して来た職員らの登庁を不能ならしめたうえこれらの者を正面玄関前に誘導して組合集会に参加せしめた。

(この事実については<証拠略>)

同日午前一一時一〇分頃、原告木村、原告沼田、原告貢、原告星上、原告二郎は、支部組合員約五〇名を先導して、業務課長金子多利蔵や会課課長羽賀忠郎が制止するのを振り切つて同局次長室を経て局長室に乱入し、局長や居合わせた同局管理者数名に対しこもごも「どうしてこういうことをやるんだ」「勝手なまねばかりしてけしからんでないか」「こんな局長いらないぞ」などと野次り、管理課長丸岡三二からの退去命令を無視して同一一時三六分頃まで執拗に抗議した。

(この事実については<証拠略>)

(四)  昭和三八年一〇月三〇日午前九時二三分頃、仙台地方貯金局第三貯金課事務室において、原告貢は、同課長神谷和郎が同局職員丸山昭代および庄司つね子に対し元通事務に従事することの業務命令書を手渡したところ、庄司つね子から手交直後の右命令書を取りあげたうえ、右命令書に手交時間九時一五分と記入されていたことに籍口し、時間が違うから無効である、書き直せなどと執拗に抗議し、もつて右両名を元通事務に従事せしめることを妨害した。

(この事実については<証拠略>)

(五)  昭和三八年一一月六日午後三時一八分頃、仙台地方貯金局恩給課長室において原告貢は、恩給課長塩谷邦治に対し調査係員を増員した理由を聞きたい旨申し述べ、同課長から、官の責任において実施するものであるから話には応じられない、引き取つて貰いたい、と退去を求められたにもかかわらず、官の権力をあくまで振つて来るのか、退去命令はなんのために出すのか、同じ局員で他課に入れば出すのか、それはおかしい等と呼び、約四〇分にわたつて話し合いを強要した。

(この事実については<証拠略>)

(六)  昭和三八年一二月二日午前一〇時四〇分頃、仙台地方貯金局第一貯金課長席付近において、原告木村、原告星上は、ほか六名の組合員とともに、同局第一貯金課長稲葉忠義に対し話し合いをしたいと申し向け、同課長から「勤務時間中であるから仕事をしなさい、話し合いはできない。」と命じられたにもかかわらず、原告木村において、「課長従来は超勤の問題等職場で話し合つてきたのに何故話し合えないのか。休憩時間はどうか。年休をとつてもよい。」「上からの命令で話し合えないのか。」「職場の明朗化を望まないのか」等と発言しながら約二〇分にわたり話し合いを強要した。

(この事実については<証拠略>)

(七)  昭和三八年一二月五日午前一〇時一分頃、仙台地方貯金局第四貯金課長席付近において、原告沼田は、組合員一二名と共に同局第四貯金課長小野勝治を取り囲み、これら組合員とこもごもに同課長に対し、服務規律並びに職場明朗化の問題について話し合いたいと申し向け、同課長から、話合いに応じるわけにはいかない、一〇時一〇分になつて休息時間が終つたから自分の席に戻つて仕事をしなさい、と言われたにもかかわらず午前一〇時二七分頃までの間話し合いを強要した。

(この事実については<証拠略>)

(八)  昭和三八年一二月七日午前一〇時一分頃、仙台地方貯金局第四貯金課長席付近において、原告沼田は、同課職員約七〇名を動員して同局第四貯金課長小野勝治をとり囲み、他の者とこもごもに、前々日の五日に要求したように明朗化の問題について話し合いたい、前には話合いをしたのに今度はどうして出来ないのか、などと申し向け、同課長が話し合いをことわり、午前一〇時二〇分になつて同課長が「勤務時間だから席に戻りなさい。」と右課員らに申し渡すや、「皆さんこの課長の態度、この実態をよく見てから仕事してください。」と叫んだあと、なお午前一〇時三六分頃まで残つた数名の者と共に話し合いを強要した。

(この事実については<証拠略>)

<証拠略>中、以上の認定に反する部分は措信できない。

五  <証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。

組合支部は、組合本部の指令により、昭和三八年の年末闘争につき、年末手当支給などの経済的要求のほかに前記の簡保転貸債に反対することを重要な目標に設定し、闘争手段として職場内集団交渉、庁内のデモや集会をすることとしたが、これが過激になり仙台地方貯金局においては無許可による庁内デモや集会のみならず職場管理者に対する威迫や暴行に至るまでの行為が行われた。そして原告らは次のように積極的に関与した。

(一)  昭和三八年一二月一〇日午後〇時一〇分頃、仙台地方貯金局の局長室前廊下において、原告木村および原告貢は、支部組合員約一五〇名を集合せしめて集会を開き、原告木村において携帯マイクを用いて、講堂の使用を許可されなかつたことついて抗議する旨演説をし、同局管理課長丸岡三二、同局第三貯金課長神谷和郎らから、許可されていない集会であるから解散するようにと再三にわたり解散を命じられたにもかかわらず同日午後〇時五四分まで集会を続行し、この間原告木村において中央委員会の決定内容についての報告とか長期闘争を覚悟し団結して勝ち抜いてもらいたいなどと鼓舞する演説を行い、また原告貢において音頭をとつて、がんばろうの歌を三唱せしめた。

(この事実については、<証拠略>)

(二)  昭和三八年一二月一一日午後〇時一五分頃から同二三分頃まで仙台地方貯金局の局長室前廊下付近において、原告木村、原告貢、原告星上、原告二郎は、約七〇名の組合員が隊列を組み呼笛に合わせて「ワツシヨイ、ワツシヨイ」とかけ声をあげ、馳け乍らデモ行進したのにつき、デモの先頭に立ち、呼笛を吹きあるいは携帯マイクで音頭をとるなどしてこれを指揮し、また原告貢は右デモの際左ひじで国民年金課長代理江口正治の胸を押しつける暴行をした。

これに引続いて同日午後〇時二三分頃、同局長室前付近廊下において、原告木村、原告貢は右組合員らを坐らせ、原告木村において携帯マイクで音頭をとつて組合員らに「団交に応じろ」「簡保転貸絶対反対」「無能管理者直ちに帰れ」等の唱和をさせ、同局管理課長丸岡三二から解散命令書を手交されたのにこれを無視し、原告貢において「年金課長、年金課長」「四貯課長、四貯課長」「管理課長にあわせろ」等と叫び、また右原告らは組合員らに全逓歌を合唱させるなどして同日午後〇時五九分まで集会を開いた。

(この事実については、<証拠略>)

(三)  昭和三八年一二月一三日午後〇時一〇分頃、仙台地方貯金局の局長室前付近廊下において、原告木村、原告貢、原告星上、原告二郎は、組合員約一四〇名が腕章や鉢巻をして三列にスクラムを組み、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」と連呼しながらデモ行進するに当り、先頭又は側面に立ち、あるいは呼笛を吹くなどしてこれを指揮し、同局管理課長丸岡三二その他の管理者が口頭で解散を命じたり又は解散命令書を手交してもこれに応じないばかりか、呼笛、大声により右命令の伝達を妨害し、同日午後一時頃までの間右デモ行進を指揮したり又は坐り込ませて集会を開いて「頑張ろう」を三唱させたりした。この間、原告木村は、同局第四貯金課長小野勝治の胸部に右肘を打ちあて、同局恩給課長塩谷邦治の左肩に右上膊部を打ちあてる等の暴行を、原告木村と原告星上は同局国民年金課長奥田慶三郎を壁に押しつける暴行を、原告二郎は右小野勝治課長の胸を右肩で押しつけたり同課長や同局第七貯金課長に接近し足踏しながらその耳もと近くで鼓まくが破れるかと思われるほどに呼笛を強く吹きならす行為をそれぞれ行つた。

(この事実については、<証拠略>)

同日午後五時過ぎ頃、同じ局長室前付近廊下において、原告木村、原告沼田、原告星上、原告二郎は、支部組合員約一〇名位を指揮して坐り込みをおこなつていた際、これら組合員と共同して、同局管理課人事係長高橋定雄、同管理課長代理大友重次郎の両名を、大声で「ワツシヨイ、ワツシヨイ」と掛け声をかけながら取り囲んだうえ、約二分間、各上体をもつて次長室扉に押しつけた後、同局第四貯金課長小野勝治、同局恩給課長塩谷邦治を順次同じような方法で廊下の壁に押しつける暴行をした。

(この事実については、<証拠略>)

(四)  昭和三八年一二月一六日から同月二〇日まで並びに同月二三日から同月二六日までの間、連日、いずれも、午後〇時一五分頃から午後一時頃まで、仙台地方貯金局の局長室前付近廊下において、前記(一)(二)記載と同様又は類似の形態で、支部組合員約三〇名ないし約一六〇名による庁内デモ行進とこれに引続く坐り込みによる集会が同局管理者による解散命令を無視して行われた。そして、原告木村はこのすべてについてこれを指揮したほか、原告貢は同月二三日を除くその余の日すべてにつき、原告沼田は同月一八日を除くその余の日すべてにつき、原告星上は同月一六ないし一八日並びに二三日、二五日につき、原告二郎は同月一六日、一八日につき、いずれも原告木村とともにこれを指揮した。

この期間中のうち同月一八日のデモ行進中に組合員が握つていた竹竿が解散命令告知中の同局第二貯金課長渡辺俊明の左下腹部に当たり、同課長が「痛い、痛い」と叫んだ事があつた後の同日午後一時二〇分頃、原告木村、原告沼田、原告貢、原告星上、原告二郎は、ほか数名の組合員とともに同局第二課長席付近において同課長をとり囲み、こもごも「痛いなら診療所に行つて診療を受けてくれ」「診察の結果悪いところがあれば私が責任とるし何ともなかつた場合はデツチ上げとなる」などと申し述べてつめより、かけつけた同局第一貯金課長稲葉忠義、同第三貯金課長神谷和郎らから退去を命じられたのに応ぜず、同日午後四時過ぎまで右渡辺課長をとり囲み、その間同課長が局長から呼出しをうけて局長室に赴くのを不能ならしめるなど同課長の職務執行を妨害した。

また、同月二一日は午前一〇時二分頃から同一〇時二〇分頃まで同局局長室前付近廊下で支部組合員約一六〇名の庁内デモが行われたが、これについては原告木村と原告沼田が指揮をした。

(<証拠略>)

<証拠略>中、以上の認定に反する部分は措信できない。

六  以上認定したような原告らの各行為のうち、仙台地方貯金局西側通用門の大門を管理者の指示・制止に反して閉門したり、出勤する職員の登庁を阻止する行為は庁舎管理秩序を破壊し正常な業務運営を妨害するもの、課長など管理職に執拗に話し合いを強要したり無断で局長室に入り込んで退去を命じられたのに応じないことは管理職の円滑な職務執行を妨害するものであり、庁内デモやこれに引続く坐り込み集会は、これが昼休みなど休憩時間や執務時間終了後に廊下で行われたものであつて組合員の士気を昂揚し当局に対する抗議の表現をする活動であるとしても、管理者らによる度々の解散命令を無視し、庁舎内を多人数がスクラムを組んで呼子にあわせて「ワツシヨイ、ワツシヨイ」とかけ声をかけ乍らはや足でねり歩き、マイクを用いて大声で演説したり全員で合唱するなど常軌を逸した行為であつて、仙台地方貯金局の職場の平穏と庁舎管理秩序を乱したものということができる。そして管理者の許可なくして庁内においてデモや集会を行うことは郵政省就業規則一三条七項(<証拠略>)に違反するものであることはもとより、原告らのこれらの行為は国の経営にかかる郵政事業に従事する職員としての官職の信用を傷つけ、官職全体の不名誉になる行為というべく、国家公務員法九九条に違反し同法八二条一号三号に該当するものというべきである。

そうすると、原告らにはそれぞれ懲戒処分理由とされた該当事実が存すると認められるものであるから、原告らにおいてこれが不存在であるとしてその無効を主張する点は理由がない。

七  郵政職員などの現業国家公務員を含めて国家公務員に対する任命権者による懲戒処分は行政処分であり、行政処分が無効となるためにはこれに重大かつ明白な瑕疵が存する場合に限られること前述のとおりである。原告らは本件懲戒処分にあたつて原告らに交付された処分説明書の記載方法を無効原因の理由として主張しているので判断するに、本件の各処分説明書には、前認定のとおり処分の事由につき、期間と行為の種類を掲げて「等」という字句でしめくくるところの概括的な表現をもつて記載されており、各個の行為について日時、場所、行為、相手方氏名を具体的には示していない。ところで、処分説明書は、被処分者に対し如何なる事由で処分されたかを知らせてこれについて不服申立をするかどうか検討せしめるものであるから、ある特定の具体的行為のみが処分事由となつた場合は格別として、一定期間内の類型的な一連の行為を全体的に評価して処分事由とする場合にはこれを概括的に示せば足りるものと解する。さきに認定した原告らの行為は、仙台地方貯金局内における約二箇月間にわたるところの同じ目的に向けられた類型的行為であり、これを全体として評価して処分事由としたものであるから、処分理由書に右のような概括的な表現をしたことが本件各懲戒処分を無効ならしめるような重大かつ明白な瑕疵であるとはとうてい認められない。

従つて、この点に関する原告らの主張は理由がない。

八  原告らに対する本件各懲戒処分につき、処分上申手続を欠いていることは当事者間に争いがない。この処分上申手続は懲戒処分の内容を適正ならしめるための手続ではあるが、処分する側の内部手続であつて被処分者を保護するための手続ではなく上申という行為の性質上上申書の内容が相手方に告知されることがなく従つて上申内容について相手方に意見陳述や不服申立の機会が保障されているものでもない。しかも、この上申意見が懲戒権者を拘束せず、懲戒権者はこれにとらわれることなくその裁量において懲戒するか否かおよびいかなる懲戒処分に付するかを決定できるものである。

そうすると、上申手続の欠如は懲戒処分の効力に影響を及ぼさないものと解される。

従つて、処分上申手続の欠如が本件各懲戒処分に対する重大かつ明白な瑕疵ということはできず、これをもつて本件各懲戒処分が無効であるとする原告らの主張は理由がない。

九  原告らについて本件各懲戒処分の理由となつた行為が存在し、これが国家公務員法八二条の懲戒事由に該当することは前認定のとおりであつて、原告らの右行為が正当な組合活動でないことは明らかである。原告らは、組合員たる職員の大多数が原告らと同じ行動をしたのに組合役員である原告らのみを重い懲戒処分にしたのは組合の弱体化をねらつた不当労働行為である旨主張するが、原告らは、前認定のとおり庁内デモその他の違法行為を指揮しかつ率先実行したばかりでなく管理者に対する話し合いの強要、暴行などの個々の行為も実行しているものであつて、単に組合役員たる地位にあつたに過ぎない、という場合とは趣を異にする。指揮し率先実行した者が重い処分を受けるのは極く自然なことであるし、原告らのうちで行為の内容、程度、回数に応じて処分内容が違つているのもこのあらわれであるということができる。しかも、郵政大臣又は郵政省の管理者側に原告ら主張のような特別な意図があつたこと又はこれをうかがわせるようなことを認めるに足る証拠はない。

従つて、この点に関する原告らの主張は採用できない。

一〇  国家公務員に対する懲戒処分が懲戒権の濫用であるために無効となるには、その懲戒処分が社会観念上いちじるしく妥当を欠き裁量権の範囲を逸脱したことが客観的に明白である場合に限られる(最高裁昭和五二年一二月二〇日判決、民集三一巻七号一一〇一頁参照)。前記認定にかかる原告らの各行為の内容、程度、回数からみるとき、これに対する本件各懲戒処分が社会観念上いちじるしく妥当を欠いたものとはとうてい認め難い。

原告らは、原告らの行動の原因を作つたのが管理者側であり、自ら原因を作つておき乍ら原告らを懲戒処分にしたのは権利の濫用である旨主張するが、元通事務の実施方法、勤務体制の管理強化、簡保転貸債等にみられる郵政省の方針、仙台地方貯金局の措置などが組合や組合員の納得を得られないものであるとしても、本来、公務員は職務については上司の方針、指示に従うとともに国民に対し官職の品位を保つよう努力しなければならないのであつて、管理者に対する抗議又は不服申立をするに当つても節度をわきまえなければならないことは当然であるから、原告らの行為が管理者に対する抗議のための行為として正当化されるとはいえず、これに対する本件各懲戒処分が社会観念上いちじるしく妥当を欠いたことが客観的に明白であるとはとうてい認められない。

従つて、この点に関する原告らの主張も採用できない。

二 なお、原告らは、懲戒処分を争う訴訟において、懲戒権者が処分説明書に記載した以外の懲戒処分事由を主張することは許されない旨主張する。これは本来、懲戒処分取消訴訟で問題となる事柄であり、基本的処分事由については説明書に記載のない事実を後日の争訟手続で主張できないが、付加的処分事由すなわち情状事実についてはこれを主張できると解されている。

本件においてこれに該当するのは前記の管理者に対する話し合い強要の際における就業命令違反と欠務、昭和三八年一二月一四日におけるステツカー貼りの事実その他の若干のものであると認められるところ、これらを考慮せずに前認定の本件各懲戒処分該当の事実(これらが処分説明書に概括的に記載された処分事由の中に含まれることは前述のとおりである。)によつても本件各懲戒処分が無効であると認められないこと既に説示したとおりであるから、処分説明書に記載されていない被告主張事実が基本的事由であるか付加的事由であるかの判断をするまでもなく原告らの主張は採用できないこととなる。

一二  以上のとおりであるから原告らの請求はいずれも理由がない。よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤和男 斎藤清実 荒井純哉)

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